
ヘンリー・ダーガーの画集を…買ってしまったよ…。
な…ななせんえん…7000円もするんだぜこれ…。へへ…どうしよう。
深夜のネットショッピングほど怖いものはないとわかっていたはずなのに…。
ついついポチってしまった。
■ヘンリー・ダーガーとは■
ヘンリー・ダーガー(Henry Darger, 1892年4月12日 - 1973年4月13日)は
『非現実の王国で』の作者である。誰に見せることもなく半世紀以上もの間、
たった一人で作品を書き続けたが、死の直前にそれが「発見」され、
アウトサイダー・アートの代表的な作家として評価されるようになった。
彼の姓は「ダージャー」と日本語表記される場合もあるが、
実際のところ「Darger」の正しい発音すら判明していない。
ダーガーは孤独の中に生きており(生涯、童貞だったとされる)、
職場である病院と教会のミサに通う他は自宅アパートに引き籠っていた。
会話を交わしたことのある数少ない隣人も、それぞれ異なる発音で彼を呼んでいる有様である。
(Wikipediaより―
ヘンリー・ダーガー)

前々からその存在は知っていて、とても興味を抱いていました。
しかしながら積極的に作品を見ようとしたり調べようとしたりすることはなかったのですが、
なぜかここ最近ダーガー氏と自分が重なってしまってw
いや、自分なんかクソだからダーガー氏の足元にも及びませんが、
なんというか…なんだか他人事とは思えないのです。
しかしながらこの画集の価格の高さはなんなんでしょう。きっと…
「こんなもん買うのは物好きのコレクターだからコレクション価格にしても売れるだろう」
って計画なんでしょうね。うん。もののみごとにその計画は成功です。
果たしてこの画集に7000円の価値があるのかどうか…って感じですが、
少なくとも私にとってはありました。たぶん。
ただこの画集は、絵と文章がほぼ半分ずつなんですよね。
もっと多くの絵を掲載してほしかったな。
■ざっくりした感想■
なんというか、すごいです。圧巻ですね。
ダーガー氏はトレースしてその絵をずらっと並べて着色して…という
独特な手法で創作していたそうです。
そして小さいイラストをわざわざフィルムで引き延ばして大きくしてトレースする、
という手間暇とお金をかけてまで制作し続けたそうです。
そしてその大きさが…大きいものだと長さが3メートルくらいの巻物みたいな作品もあります。
同じ顔の少女たちがずらっと並び、極彩色で彩られている様子は不気味だけど、
すごく癖になる不思議なオーラがあります。

↑そして、背景の雲の様子を描くのがとても上手です。
(中身を載せちゃいけないけどこれくらいならいいよね…。)
なんでもダーガー氏は「お天気フェチ」だったそうで、
特に荒れ狂う嵐とかそういった天候が大好きだったと解説に書いてありました。
日ごろから常に空を観察していたようで、
そりゃ雲を描くのも上手になるわな、と納得しました。
雲の部分はトレースじゃないよね…?どうなんでしょう。
また、ダーガー氏のこれらの絵は、あくまで小説の挿絵なんですね。
ダーガー氏はとてつもない膨大な小説を書き続けていたわけです。
これをねぇ、自分のためだけに60年間描き続けて、
周囲から評価を得たいとか、発表したいとか、人に見せるとか…を一切せずに、
ただただひたすら自分のために描き続けて描き続けて…ってのがほんとに感動します。
ダーガー氏は81歳でこの世を去りますが、
死に際に大家に持ち物の処分を問われた時、「Throw away(捨ててくれ)」と答えたそうです。
…おそらくダーガー氏のこの『非現実の王国で』は、
とてつもなく壮大な超弩級の「黒歴史ノート」だったのではないでしょうか…。
黒歴史ノートが死後全世界中に発表されてしまうとか、ある意味酷いですよね(笑)
おそらくダーガー氏は草葉の陰で
「ヒィィ…捨ててくれと言ったのになぜ捨てなかったんだよ…
アウトサイダー・アート?知るか!そんな御大層なもんじゃねーよ!
遠い異国の地のわけわからん女までどうして俺の絵を見てるんだよ…!勘弁してくれ」
って思っていると思います。赤面しているだろうな…。
もしかしたら怒っているかもしれませんね。
死に際に大家にきっぱりと「捨ててくれ」と言い放ったってのも感慨深いです。
「あぁほんとに自分のためだけに作り上げた、自分のためだけの世界だったんだなぁ」
としみじみ感じます。泣ける。
これだけ手間暇かけたライフワークを「捨ててくれ」ときっぱり言えたってことは、
自分の死期が迫っているから、作品も共に死ぬべきと思ったんでしょうか。
しかしね、ダーガー氏は一歩間違えば犯罪者になっていたと思います。
作品の中にはとてもサディスティックな描写があります。
少年少女をこれでもかと拷問したり虐殺したりしているんですね。
やはり引きこもったり、異性との接触がとても少ないと、攻撃的な性質を持つようになり、
性欲やらなにやらが歪んでいくんだと思います。
正直、最近出回っている一部の男性向け同人誌…とかの
少女に対する異常なまでのサディスティック精神と同じような臭いを感じます…。
いや、それとダーガー氏の作品を同列に語りたくはありませんが、
おそらく精神の根っこの部分は似ているのではないのかな…と思います。
なので、ダーガー氏は、情熱が変な方向にひん曲がっていたら、
少女を狙った性犯罪やシリアルキラーになっていた可能性が高いです。
しかしながらそうならなかったのは、創作意欲と、キリスト教への篤い信仰と、
あくまで“正気”であり、異常者にはならないギリギリ平凡な精神構造だったからだと思います。
しかしながら…こういった作品に美術家とかが大真面目な解説をしているのを見ると、
なんだかちょっと笑ってしまいます。
この画集の解説も
「とても素晴らしい表現だ!これほどまでの表現は美術史においても類を見ない…云々」
とか書かれていますけど、なんというか…うーん。
こういった超特殊な作品は、美術家がうんぬんかんぬん言ってもあまり説得力がないですね。
ただ、精神分析という観点から見るととても興味深いと思います。
…そんなこんなで、この画集にはなかなか感動させられました。
だいたいね、ダーガー氏の死後、
アパートのオーナーで美術家でもあるネイサン・ラーナーという人がたまたま作品を見つけて、
「こ…これはすごい作品だ!保存しなきゃ!」と思った…ってのもすごい奇跡ですよね。
この大作を60年間、自分のためだけに、誰にも見せずに描き続けた…ってのがほんと泣ける。
泣ける…。そして尊敬する。
でも本人はきっと捨ててほしかったんだろうな(笑)